筋層非浸潤性膀胱がん(ステージ0期とⅠ期) の治療法

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筋層に浸潤がない「筋層非浸潤性膀胱がん」の治療は、膀胱を温存する形で進められます。ほとんどの場合、手術療法は行わず、「再発リスク」の大きさに応じて薬物療法を行います。薬物療法には、「膀胱内注入療法」という方法が使われます。

筋層非浸潤性膀胱がん 治療の3つのポイントとは?

1) その1 膀胱の温存が可能

筋層非浸潤性膀胱がんの治療では、膀胱を温存することができます。膀胱は尿をためるだけでなく、排尿時には自ら収縮することでスムーズに尿を排泄させる役割を果たしています。その機能を損なうことなく、治療を行うことができます。

2) その2 再発リスクが低い場合は手術療法が不要

膀胱がんと診断された後に、ステージ分類のために行うTURBTは、膀胱がんを切除する「手術療法」としての役割も果たしています。そのため、再発リスクの判定で「低リスク」または「中リスク」と判定された場合、手術を行いません。
一方「高リスク」と判定された場合は、2回目のTURBTを行うことがあります。

3) その3 「再発リスク」に応じて薬物療法を行う

筋層非浸潤性膀胱がんの治療では、膀胱を温存するので、手術後も自然な形で排尿ができるというメリットがあります。その一方で、温存した膀胱内で膀胱がんが再発するリスクが高いというデメリットもあります。そこで、再発リスクをできるだけ下げるために再発リスクの判定を行い、その結果に合わせて薬物療法を行います。

Q. 膀胱を温存した場合、膀胱内で再発するリスクが高いので薬物療法を行うということですが、薬物療法を行えば、再発はなくなるのでしょうか?

A. 薬物療法を行うことで再発のリスクを下げることはできますが、残念ながら、再発のリスクをゼロにすることはできません。そのため、薬物療法が終わった後、定期的に病院を受診していただき、再発がないかを確認します。
「筋層非浸潤性膀胱がん」の場合、仮に再発したとしても、同じ「筋層非浸潤性膀胱がん」として再発することが多いとわかっています。そのため、たとえ再発した場合でも、多くの場合、確実に治療を行うことができます。このような特徴があるため、「筋層非浸潤性膀胱がん」では、膀胱を温存するという治療方針がとられているのです。
膀胱を温存することは、患者さんにとって明らかにプラスですが、その結果、予後が悪くなることがあっては意味がありません。膀胱を温存することで、予後が悪くなることがないとデータで確認されているからこそ、「筋層非浸潤性膀胱がん」では、膀胱を温存する治療法が標準治療になっているのです。

「再発リスク」はどのように判定される?

「筋層非浸潤性膀胱がん」の再発リスクは、「低リスク」「中リスク」「高リスク」の3段階で判定されます。判定は、がんの大きさ、T因子、悪性度などで決まります。

「再発リスク」の判定

薬物療法ではリスクに応じて、2種類の薬剤を使い分ける

がんの薬物療法では、がん細胞を死滅させたり、増殖を抑えたりする効果がある「抗がん剤」を使用します。
抗がん剤には、いくつかのタイプがあるのですが、最も広く使われているのは「細胞障害性抗がん剤」です。細胞障害性抗がん剤は、文字通りがん細胞に障害を与えることで、がん細胞を死滅させたり、増殖を抑えたりします。

膀胱がんの薬物療法では細胞障害性抗がん剤のほかに、結核のワクチンとして使われる「BCG(ウシ型弱毒結核菌)」も使用されます。BCGは、私たちの体に備わっている免疫を刺激する作用があるため、がん細胞を排除する力が高まり、その結果としてがん細胞を死滅させる、または増殖を抑えることができます。BCGは特に上皮内がんに対する効果が高いため、上皮内がんの治療としても使用されます。

「細胞障害性抗がん剤」と「BCG(ウシ型弱毒結核菌)」の特徴

筋層非浸潤性膀胱がんの薬物療法 「膀胱内注入療法」とは?

抗がん剤を膀胱内に直接注入することで、膀胱内のがんを叩きます。実際の治療では、まず、尿道から膀胱へカテーテル(細い管)を挿入します。次に薬剤を注入して、一定の時間、膀胱内にとどめます。その後、排尿することで薬剤を排出します。

膀胱に直接薬剤を注入する「膀胱内注入療法」

実際の治療法

1) 細胞障害性抗がん剤を注入する場合

① 治療の流れと回数

細胞障害性抗がん剤を膀胱内に注入した後、30分ほど膀胱内にとどめておき、その後排尿します。TURBTの直後に1回だけ行う場合と、継続して行う場合があります。継続する場合は、週1回の治療を6~8週間続けます。

② 副作用

頻尿、排尿痛などの副作用が出る場合があります。

2) BCGを注入する場合

① 治療の流れと回数

BCGを膀胱内に注入した後、2時間ほど膀胱内にとどめておき、その後排尿します。治療は週1回行い、6~8週間続けます。

② 副作用

排尿に関する副作用には排尿痛、頻尿、血尿、排尿困難、尿道の痛み、残尿感などがあります。そのほかに発熱、下腹部痛などが起こる場合があります。多くの症状は短期間で消えますが、長期間続くこともあります。症状が長引く場合は、医師の診断を受けるようにしましょう。

膀胱内に薬剤を直接注入する2つのメリット

1) がん細胞に、直接薬剤を作用させることができる

膀胱がんは、膀胱の内側を覆っている上皮内から発生します。そのため、膀胱内に薬剤を注入することで、上皮内にあるがん細胞に直接作用させることができます。

2) 副作用を最小限に抑えられる

一般的ながんの薬物療法では、抗がん剤を点滴、または、服薬します。体内に入った抗がん剤は全身に広がり、全身で効果を発揮するため「全身療法」と呼ばれます。
その一方で、全身に広がった抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にもダメージを与え、副作用が起こります。

「膀胱内注入療法」は、抗がん剤を膀胱内に注入するため、膀胱内だけで作用します。そのため、一般的な薬物療法に比べると副作用が少ないのです。

リスクの判定後
どのような治療が行われる?

「筋層非浸潤性膀胱がん」の治療は、再発リスクによって異なります。再発リスクは、TURBTの後に行われる病理組織診断の結果と、画像診断(CT、MRIなど)の結果から判定されます。

TURBTは「検査」としての役割だけでなく、「治療」としての役割もあります。そのため、「低リスク」と「中リスク」の治療は、薬物療法のみとなります。一方、再発のリスクが高い「高リスク」では、確実に治療を行うため、再度TURBTを行う場合があります。
また、「筋層非浸潤性膀胱がん」の治療は、T因子が「上皮内がん」である場合と、それ以外の場合で異なります。

「筋層非浸潤性膀胱がん」 リスク分類毎の治療の流れ

1) 低リスク[抗がん剤膀胱内注入療法(単回)]

細胞障害性抗がん剤の「マイトマイシン」または「アドリアシン」を生理的食塩水で薄め、膀胱内に注入します。注入後、膀胱内で作用させるため、30分ほど排尿をがまんします。30分後にトイレで排尿して、抗がん剤を体外に排泄します。
治療の回数は1回で、基本的にはTURBTを行ってから24時間以内に行います。

2) 中リスク[抗がん剤膀胱内注入療法(維持療法)、またはBCG膀胱内注入療法]

細胞障害性抗がん剤を継続して注入する抗がん剤膀胱内注入療法(維持療法)、または、BCG膀胱内注入療法が行われます。

① 抗がん剤膀胱内注入療法(維持療法)

細胞障害性抗がん剤の「マイトマイシン」または「アドリアシン」を生理的食塩水で薄め、膀胱内に注射します。注入した後、30分ほど膀胱内にためておき、その後排尿します。
治療は週に1回、6~8週間継続して行います。

② BCG膀胱内注入療法

BCGを膀胱内に注入した後、2時間ほど膀胱内にとどめておき、その後排尿します。
治療は週1回、6~8週間継続して行います。

3) 高リスク[2回目のTURBT、またはBCG膀胱内注入療法]

上皮内がんではない場合と、上皮内がんの場合では治療法が異なります。

① 上皮内がんではない場合

「2回目のTURBT」か「BCG膀胱内注入療法」のどちらかが行われます。2回目のTURBTを行う場合は、1回目よりも広い範囲で、かつ深い部分まで削り取ります。BCG膀胱内注入療法を行う場合は、中リスクの場合と同じ方法で行われます。

② 上皮内がんの場合

「BCG膀胱内注入療法」を行います。BCGは、特に上皮内がんに対して効果を発揮します。上皮内がんは上皮内に存在していて、表面が平らな形状になっています。このため、TURBTを行なう際に、すべてを切除するのが難しい場合があります。そのため、残っている可能性がある上皮内がんを死滅させるため、上皮内がんに対して効果が高いBCGを使って治療を行うのです。

Q. 上皮内がんは、上皮の中に存在している状態なので、リスクが高くないように感じます。それなのに、なぜ、上皮内がんの再発リスクは「高リスク」になっているのですか?

A. 上皮内がんは、膀胱内の粘膜部分である上皮内に存在しているがんです。そのため、上皮から飛び出した部分がカリフラワーやイソギンチャクのような形の「乳頭状非浸潤がん(Ta)」と比べると、膀胱鏡で確認した際に発見するのが難しいという性質があります。そのため、TURBTの際に見逃される可能性が高く、再発のリスクが高くなります。
それに加えて、「乳頭状非浸潤がん(Ta)」に比べると筋層に浸潤する確率が高く、そのスピードも速いという、やっかいな性質をもっています。そのため、上皮内がんは「高リスク」に分類されているのです。 その一方で、上皮内がんは、BCGが高い効果を発揮するという特徴があります。その理由として考えられているのは、膀胱の内側の粘膜内に存在しているため、膀胱内に注入したBCGが作用しやすいことです。「乳頭状非浸潤がん」と比べると、薄く広がる「上皮内がん」は目立たないために発見は難しいのですが、その「薄く広がる」という性質のため、BCGでの治療が可能なのです。

上皮内がんと乳頭状非浸潤がんの違い
監修医師

堀江 重郎 Shigeo Horie

順天堂大学大学院泌尿器外科学 主任教授
順天堂大学附属順天堂医院 泌尿器科長
専門分野:泌尿器がん(前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌)の手術・薬物治療、男性更年期障害、性機能障害、性腺機能低下症、LOH症候群

専門医・認定医:
日本泌尿器科学会指導医、日本腎臓学会指導医、日本癌治療学会暫定教育医、日本内視鏡外科学会腹腔鏡技術認定医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


北村 香介 Kousuke Kitamura

順天堂大学附属練間病院 泌尿器科 准教授
専門分野:泌尿器悪性腫瘍、ロボット手術、腹腔鏡手術、尿路性器感染症

専門医・認定医:
日本泌尿器科学会 認定専門医、日本泌尿器科学会 指導医、日本泌尿器内視鏡学会 腹腔鏡手術認定医、日本がん治療認定医機構 専門医、ロボット外科学会 国内A級認定、ロボット外科学会 国際B級認定、インテュイティブサージカル da Vinci Certificate

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


家田 健史 Takeshi Ieda

東京臨海病院 泌尿器科
専門分野:膀胱腫瘍・尿路感染症

専門医・認定医:
日本泌尿器学会専門医・指導医 日本がん治療学会認定医、Certificate of Da Vinci System Training、ぼうこう又は直腸障害の診断指定医、ICDインフェクションコントロールドクター認定、内分泌代謝科(泌尿器科)専門医、医学博士

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。

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